第10回日本スポーツ理学療法学会学術大会

大会長挨拶

赤坂 清和

第10回日本スポーツ理学療法学会学術大会
学術大会長 赤坂 清和


 2021年7月より開催された東京オリンピック・パラリンピック大会では、全国各地から集結した理学療法士が、多くの競技会場や選手村にて世界のトップアスリートに対して理学療法を提供しました。多くの事前研修会や数百時間に渡るオンライン教育を受講してきたとはいえ、私たちは、バックグラウンドもスポーツ理学療法士としての経験も異なる集団でした。しかし大会が始まると、私たちはアスリートに対してこれまで実践してきた地道な機能評価を行い、それに基づいた安全で適切な理学療法サービスを提供する中で、互いの得意とする理学療法を共有しながら、理学療法の大いなる可能性を確認しました。

 2021年10月に日本理学療法士協会は、およそ10年ぶりとなる理学療法ガイドライン第2版を出版しました。本学会からは、投球肩・肘障害、ACL損傷、足関節捻挫に関する多くの Clinical Questions に対して文献を精査し、可能な限り meta-analysis を実施して理学療法のエビデンスを導き出しましたが、私たちはどの程度共有することが出来ているでしょうか。理学療法士として働き始めると、大学や臨床実習で身につけたはずの理学療法の評価や治療が正確に実施できないことや、まわりの先輩理学療法士に比べて治療効果が十分ではないことに気づき始めることが多く、このようなガイドラインの有効性と継続的な作成の重要性を再認識することが多いのではないでしょうか。

 本大会では、スポーツ理学療法の領域で活躍されてきた先人が積み重ねてきた知識や技術、経験などを学び、アスリートに生じる機能障害の捉え方や治療手技のコツなどを共有するとともに、新しい考えや若い人の感性を大切にしながら受け継がれていくことが私たちの大きな成長へとつながる、そして現在において入手可能な理学療法のエビデンスと専門家の意見を学修すべきであると考え、『スポーツ理学療法における共有と伝承 - The Best Contemporary Evidence and Expert Opinion -』という学会テーマとしました。

 特別講演では、スポーツ庁の室伏広治長官より人生にわたるスポーツの役割と活用についての取り組みについてご講演いただきます。そして、教育講演として、リハビリテーション医として長年の臨床経験と多くの研究実績がある、東京大学リハビリテーション科の緒方徹教授にパラスポーツから見た国民へのスポーツとリハビリテーションの可能性についてご講演いただきます。海外招聘講演として、FIFAのメディカルセンター(F-MARC)や国際スポーツ理学療法連盟(IFSPT)の理事で活躍され、現在もBritish Journal of Sports Medicine(BJSM)の副編集長Deputy Editorを務める Dr. Mario Bizzini 先生と野球のバイオメカニクスからみた研究とサンフランシスコ・ジャイアンツ球場にて野球競技の安全対策を全米レベルで実施してきた Prof. Rafael Escamilla 先生よりご講演をいただきます。また、これらの特別講演や教育講演、海外招聘講演を軸として、これまでスポーツ理学療法士をスポーツ現場で牽引してきていただいた講師とスポーツ理学療法における学際的で幅広い研究活動において活躍されている講師を織り交ぜるプログラムを構成しました。

 これまでのスポーツ理学療法を築き上げてきた叡智について、スポーツ理学療法の領域で活躍される皆さまに伝承するとともに、新しいスポーツ理学療法を創造していく機会になれば幸いであると考えています。